嗜癖のモジュレーション |
わかってはいるけどついついっていうのが人情で。。。なーんて、我々は日々の暮らしの中にそんなことを思う瞬間が何度かあるものだ。我々の今は日々連続する選択の結果(意識的であろうがなかろうが)であって、それは絶え間なく続いてゆく。学校に行こうか、友達と遊ぼうか、仕事をサボろうか、筋トレしようか、酒を飲もうかなど、プラスにでもマイナスにでもなる行為をするかしないか頭のどっかで決断している。その積み重ねの結果が今で、そして気づかぬうちに習慣が形成され何かに依存状態になってしまっていることもある。 アベがお花見ネタで支持率が傾き始めると、沢尻エリカさんがエクスタシー所持かなんかで逮捕されて、お茶の間が盛り上がっていたようだが、同列に並べないでほしい。彼女がドラッグやっていることなんて、国民を欺く政治家の1万分の1にも満たないほどの可愛い悪だし、依存症は脳の病であって、極めて個人的なことだ。田代まさし、小向美奈子、のりピー、はたまた清水健太郎など、覚醒剤がらみで逮捕される人々を見ると気の毒で仕方ない。日本のマスメディアのバッシングが過剰すぎるし、それを鵜呑みにする庶民によって社会的に吊るし上げられるからだ。 そもそも日本庶民は昔からドラッグについて知識がなさすぎるゆえ犯罪としての扱い方にも問題がある。幻覚剤も大麻も覚醒剤を同列に扱うのはナンセンスだし、酒もタバコも同じようなものという認識もあまりない。山口富士夫や伊藤耕など日本のパンク創世記の重要なミュージシャン達は警察にマークされなんども逮捕されるなどし、伊藤耕は獄中でひどい扱いを受けて殺されたようなものだ。日本庶民にはびこるドラッグに対する無知なステレオタイプのおかげで失ったそのロック文化は計り知れない。 別にドラッグを推奨しているわけではない。ドラッグ大国のアメリカで一通り経験したのは言うまでもないが、大学に戻って勉強し直すようになってからたまにクサを吸うくらいで酒もほとんど飲まない。ヘロインやコカインなどのハードなものに関しては習慣性が怖くもう2度と近づいていない。周りにやっている人もいるけど、個人の問題なので干渉はしない。ドラッグから得ることのできる恍惚感などの精神作用よりも、なぜそういうことが起こるかという脳のシステムの方に興味がある。 ドラッグ使用の問題点は、脳の正常な機能の破壊にある。人間が生きていくために備え付けられている脳内麻薬に似た成分を摂取することによってドーパミンが出るなどして、何がしかの意識の変化が起ったり多幸感が得られたりする。本来、何がしかの努力の結果得られる快感などが、簡単な消費活動によって得られるようになると徐々にそれが習慣化し、その結果形成された脳みそのシステムは、ついにその衝動を抑えられることができなくなってしまう。 薬物依存を克服するために努力していたけどまたも逮捕されちゃった田代まさしは「1日1日をやらずに過ごしていくこと」の積み重ねだと言っていた。一度あの快感を知ってしまった脳は、その衝動が起きたら、我慢すること以外何もできないくらい支配されてしまうのだ。恐ろしい。その衝動とのたたかいはスィーツでも、酒でも、ゲームでも、オンラインポルノでも、何がしか誰でも経験があるはずだ。しかしその中でもハード・ドラッグが及ぼすその欲求はかなり強力なのだ。 嗜癖にハックされた脳はやがて衝動の制御ができなくなり、行動に色々と障害が出てくとそれはもう依存症だ。誘惑に流され日常を過ごすか、その誘惑に抗って軌道修正するかという余分な選択に苦しむことになる。それは病なのだ。そして、そんな病気の人間を犯罪者扱いすることはなんか違うと思う。僕のリスペクトする作曲家で二十年前はジャンキーだったけど、その後一切を絶って音楽に専念している人がいる。今の彼はすごくプロダクティブだ。どうせ依存するならそっちの方が素敵である。 もくのあきおは、電子音響を中心に活動する音楽家。最近は、元チボマットのホンダユカとのユニットon/in(音韻)などでもライブを行なっている。 |
![]() |