人情紙風船

第6回 『トムとジェリーであっはっは編』

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  舞台は50年代アメリカ。全裸にネクタイの、その頭には何故かボーイスカウト調の帽子をかぶったクマが森の平和を守るために活躍する、ワイルドなアニメ「クマゴロウ」をみなさんご存知か。私は知っている。この世の中には人間が知ってはならない事があるということを…。これから書くことは私の体験談をレポートにしたもので、場合によっては食い違うところがあるかもしれませんがそれはご了承ください。

 6月某日曇り。その日私は友人の強い薦めによってディレクTVに加入した。税込み4万5千円、月々3000円の楽々ローン15回払い…かなりせこいローン…今から思えばそれがすべての始まりだったのだ。

  ディレクTVとは衛星を利用したテレビ放送である。世間ではスマップの中居君がCMしているスカイパーフェクトTV(通称スカパー)という衛星放送があり人気があるのだが、ディレクTVはスカパーの10分の1程度しか加入者のいないマニアックな衛星放送だ。読者の皆さんの予想通り、加入者の数に比例するように番組内容の方もマニアックである。朝から晩まで時代劇だけを垂れ流す「時代劇チャンネル」。無編集で国会中継を放送する「国会チャンネル」。Dカップ以上の「ボインちゃん」だけを専門的に紹介する「ボインチャンネル」…なんと、この世紀末にボインを専門的に紹介だなんて…「ボイン」…「ボイン」…ハッ!いちおう断っておくが私がディレクTVに加入したのは断じてスケベのためではない!音楽のためだ!いや、マジで…という訳で、ディレクTVには60年代から70年代のロックの貴重な映像を24時間オンエア!という、これまたマニアックな趣向のチャンネルがあり、それが目当てで加入したのだ。現在のミュージックシーンにまったく逆行したこのチャンネルは、視聴率という薄っぺらな概念から自由な番組構成だ。例を挙げると、今月のお薦めライブは「ドクタージョン」と「ザ・モンキーズ」。宇多田ヒカルなど何処吹く風。今月のお薦めは「ドクタージョン」である。

結局、加入後しばらくすると音楽チャンネルだけを見るはずが、ある番組見たさに別のチャンネルを見始めてしまった。その「ある番組」とは何を隠そう「トムとジェリー」である。実は僕はいい年して「トムとジェリー」が好きなのだ。やっぱオモシロイですよ。水戸黄門も驚く完成された頑固なまでのワンパターンは、もはや芸術と言える。そして、そんな「トムとジェリー」の後に始まるのが冒頭でご紹介した「クマゴロウ」である。番組の概要は先に書いた通りだが、「トムとジェリー」の後に「クマゴロウ」さらにその後「怪傑マック」というギターが武器の馬アニメ、その次は…というようにカルトなアニメばかり放送されるためにすっかりアニメファンになってしまった。正確に言うとアニメばかり見ているのだ…。嗚呼、栄光の70年代ロックは何処へ…。私は知っている。この世の中には人間が知ってはならない事があるということを…。