ニューヨーク特派員報告
第209回

不確定なソーシャル


明日がどうなるかは9割がた想像がつくけど、ひと月先の予想的中の確率はもっと落ちる。つまり1年後にどうなっているかはかなり予測がつきにくい。もちろん、個人としては、それらは未来に続く今をどう過ごしているかによる訳だけど、不確定の要素はいつもあちらこちらに散りばめられている。

情報が過剰に溢れているインターネットの世界は、様々な考え方を形成させるだけのあらゆるエビデンスに満ちている。SNSの世界では、今まで見えなかった腹の底にあるドロドロしたものまでが可視化されるようになり、妄想が暴走するのに拍車をかけるようだ。その反面、日本の主要なジャーナリズムはどこかで規制されていて、人々の思想は無意識のうちに操作されているように感じるのは僕だけではないはずだ。

政治の世界もノウハウを知っている連中が選挙に勝つ。だからか国会には世襲議員が多い。イデオロギーとは縁のなさそうな無思考のイエスマンばかり群れて数の力で少数派の意見を抑え込む。でっち上げのデータや、何かに取り憑かれたような虚言、にやけた顔で保身のための嘘を連発する。意図的な緊急性を強調し、強行採決をしまくる。それを応援する群衆は国旗をはためかせ自分は優れた民族の一員であると息巻く。周りの人の意見に流され、少数派に対して攻撃的になるなんてこともやたらと目につく。

アメリカも嘘つきの差別主義者が権力を持ってしまっている訳だけど、民主社会主義者を掲げるバーニー・サンダースが来年の大統領選に出馬することになり、ちょっと嬉しい。先日、そのキャンペーンの集会を母校であるブルックリン大学からスタートした。前回の大統領選の時もそうであったが、彼は若者から圧倒的な人気がある。1%の支配者層に振り回されている99%の一般市民達という構図にうんざりした我々にはサンダース候補の掲げる医療の充実や公立大学の無償化など、開きすぎた貧富の差を埋める社会保障の必要性を感じ、彼の倫理観に溢れるスピーチに痺れるのである。労働者階級に生まれ貧しさの中に育ち、一貫して社会主義を訴えてきた彼の言葉には重みがある。

一方、最近の日本の国会で調子に乗っている支配者層の末裔達のヤジや発言に知性の欠如を感じる人は少なくないと思う。日教組や共産党に対するステレオタイプにもそれを感じる。怖いのはその陳腐な価値観をも擁護する政治学者などがいて、やはり危機を煽り徴兵制の必要性などをうたったりする。そしてさらに危険に思うのは、それを鵜呑みにしている人々の数がかなり多いことだ。当然、そう言った考え方は自分の周りにも蔓延しているようで、先日、たまにご飯を一緒に食べに行く友人が、「日本は軍隊を持って、北朝鮮の拉致被害者を取り返しに行かねばならない」と言っていた。きっと我々の見ているセカイを取り巻く状況には、このような乖離があちこちであるのであろう。

未来を見つめる時に過去に何があったかを正しく理解することは大切だ。その過去は長い方がいいと思う。人間の本質が見えてくるからだ。その本質の集まりが社会でありそこに生まれる問題はいつの時代にもあり、現在とよく似たことが過去にも発見できる。その時、人々はどのように対応し、どのような結果を招いたか。ということを見ることが有意義な道筋をつける手助けになるはずである。一方、感情や精神論に走ることは無思考になってしまうので避けるべきであろう。

もう戦後は終わったのだ、敗戦国というコンプレックスから自由になろうみたいなことを語る政治家達の背後には、戦前に日本は神の国だと国民の思想を抑圧してきた支配者層の邪悪な亡霊が見え隠れする。地球上には、世界中の人々が調和して暮らしていけるだけの充分なリソースはある。利権に振り回されるのではなく公平に富の分配ができる人間がリーダーになって欲しいものだ。10年後の世界はどうなっているのであろうか。

もくのあきおは、電子音響音楽の作曲を中心にパーフォーマンス活動やノイズバンドなどにも参加している。

www.akiomokuno.com

copyright