ニューヨーク特派員報告
第153回

NYCEMF2014


今年もニューヨーク市電子音響音楽祭(New York City Electroacoustic Music Festival)が開催(6/2-6/8)されている。去年は、ミッドタウン、ダウンタウンとブルックリンの3箇所での同時開催5日間というものであったが、今回は、ローワーイーストにあるエイブロン・アーツセンターという巨大な施設を貸しきってその中に劇場を含めた3つのコンサート会場をつくり、7日間というものとなっている。参加する作曲家は120人以上おり、全米を始め、フランス、ドイツ、スペイン、中国、台湾、韓国などからも来ており極めて国際的である。

参加者自体も、国際的で、僕のようにアメリカで勉強している韓国人や南米人、オーストリア在住やイギリス在住などで暮らしている日本人、また日本やハンブルグの大学で勉強している中国人など、国境を超えて活動する作曲家が多くいるのもいかにも現代的で興味深いところである。

電子音響音楽とは、基本的にスピーカーから聞こえてくる環境で成り立つ音楽であり、多くの作品は暗闇の中音だけを聴く。築99年という歴史ある劇場にはオクトフォニック8.1ch(8つのスピーカーをサブ・ウーファー)、実験劇場には16.1ch(上下に2発のスピーカーを8箇所楕円形にならべた)そして地下劇場は、5.1ch(一般的なサラウンド)というゴージャスな音響体験ができる空間が構築されている。ジェネレックというフィンランドの音響メーカーがスピーカーを提供してくれた。

前回は落選したものの、今回は入選し、僕の作品もそこで演奏されることとなった。去年秋に書いた「ムラーリ公園9/10」というフィールド録音を音符化したピアノの為の電子音響作品(特派員報告146回に記載)である。ホンダ・ヒトミさんにすばらしい演奏をしてもらった。僕の曲は大野茉莉さんというサウンドアーティストの作品の次であった。 彼女は文化庁主催のコンテストで賞をとっていて、そのインスタレーションの作品を2年前に東京現代美術館でみたことがある。今回の作品は世界各国の言葉による時報をミックスしたコラージュ的なものであった。

プログラムは、作曲家と演奏者の紹介や曲の解説などがまとめられている一センチくらいある厚めの冊子となっている。そもそも、アカデミックであるのだが、その参加者達のプロフィールをざっと見ると、博士号取得者や、世界各国のフェスで入選、賞をとっている参加者率が高い(ロックバンド歴を書いていたのは、僕だけであった)。それだけに、発表される作品は電子音響音楽の世界では先端系であるものもある。演奏家も高水準で、かなりの芸術性を極めている作品にであうこともある。

3日目にみたプロードの演奏によるオリベイラの「モザイク」というピアノと電子音響の曲は、体中の神経に戦慄が走る衝撃的 なものであった。寸分の狂いもなくヒットした鍵盤の音が8つのスピーカーに砕け散り着地し、統合したと思ったらバウンドする。ハンマーが弦を叩く瞬間が音速で目前に現れ、弾け、その音の飛沫がホールのなかで波打ち、また模様を描きまた点になる。このように音が会場を這いまわるのは、10年前に見たブーレーズのコンサート以来である。音響操作の限界を突き抜けた日常でありえない聴覚体験に加え、ピアニストのイタリア人らしい情熱的なアティキュレーションに脳が高揚し涙腺から打ち震えるのであった。

電子音響音楽のフェスやカンファレンスは最近、アメリカやヨーロッパで精力的に行われているようである。こういったある種、特殊な音楽の愛好家が集まり、情報交換やネットワーキングするにはうってつけの機会であるし、お互いの作品を聴いて切磋琢磨ことは、創作意欲に火をつけてもくれる。 僕は足繁く通い、暗闇の中耳を傾け、芸術化された音を記号に、果てしなく哲学的なものを感じているのである。

もくのあきおは元今池ロッカーズで、94年に渡米。現在はニューヨーク市立大学機構修士課程で電子音響音楽の作曲を勉強しながら、 メディア・パフォーマーなどの方向でも活動している。

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