ニューヨーク特派員報告
第142回

ケベック


念願であったカナダのケベック・シティまでドライブ旅行をした。ニューヨークから、87号線を北へ北へと車を走らせた。国境を超え1時間ほどで、モントリオールがあり、そこからさらに3時間ほど北へ向かうと、その街はある。セントローレンス川を見下ろすヨーロッパ調の城がランドマークのそこは、400年の歴史があるフランス語圏。つまり、リーズナブルな外国旅行なのであった。

とはいえ片道約500マイル(約800キロ)。名古屋市から盛岡市くらいの距離である。時速100キロで走り続ければ8時間だが、休憩や国境、スピード規制(一度警察につかまった)などを守りつつパートナーと交代しながらでも11時間程かかり、モーテルに到着したのは夜8時であった。奇しくもその日は、カナダ・デー(建国記念日)でレストランも遅くまでやっており、やっとまともな食事にありついたのであった。

ケベック・シティは城を頂点とした丘になっていて坂が多い。城下町である旧市街がメイン観光地のようだ。今はホテルになっているシャトー(城)を囲んで、お店やレストランが並ぶヨーロピアーンな石畳の路地がある。北の方は延々とした森に囲まれているからか、その空気は今まで嗅いだことのない強烈な森の匂い(ヒノキとミントを足して割ったのよう)ががした。山が夜放つその香りと北大西洋から流れこんでくるようなひんやりとした空気が交じり合いとびきり味わい深い酸素で満たされていた。

旅の目的地は、そこから更に2時間ほど北上したシャルルボワというエリアであった。ケベック・シティを離れた郊外では、農家や牧場が多く、あちこちで見かけるのはフレーゼ(イチゴ)の道売り、フロマージュ(チーズ屋)とビン・ヤード(ワイナリー)である。どれもローカルの新鮮なものであるからおいしいことは言うまでもない。イチゴは、酸味が少しあり味が濃い。フランス人仕込みだからか乳製品は全て美味しいし、リンゴから作った甘いワイン?みたいなものもウィスキーのような香りがして絶品である。店のおじさんは、アップル・サイダーと言っていた。

セントローレンス川は、北大西洋が食い込んでいるような形になっており、シャルルボワではすでに海のようになっている。山の木々は、逆三角形のクリスマスツリーを彷彿させるもので、あまり高さが無い。山を切り開いて走る道は果てしなくまっすぐで、車もほとんど走っていない。空の色は薄ら青く、日本の冬の空に色に似ていた。交通標識には、トナカイ注意のマークが描かれていた。旅の2日目は、べ・サン・ポールという村で宿をとった。真空状態の様な静けさに冷たい空気。歩くたびに香ってくる潮の匂いと森の匂いは、まさに楽園リゾートである。太陽は、夜10時まで沈みきらなかった。

シャルルボワをイメージ検索して出てくる風景(2次元)は、広大な絶景が多い。だから僕は、その中に行ってみたかったのだ(3次元体験)。GPS(カーナビ)や検索した情報を頼りに旅をすると、長距離弾道ミサイルのようにピンポイントで目的に到達する現代的な感覚がある。自分の計画ビジョンが現実化したその瞬間に、その経験が予想を上回ったような感動的なリアリティとなる。写真をたくさん撮って、その場でフェイスブックにアップしたりした。見渡す限りに山に囲まれたその山頂には、ケータイの電波が届いていたのだ。

帰りはモントリオールで一泊。 市場や繁華街を見て回った。ちょうどジャズフェスの初日でビッグバンドが演奏していた。中華街があったから、なんとなく駐車したら其処が街のメインであったのだ。そういう偶然は、うれしいものだ。ご当地グルメであるプーティン(フライドポテトにグレイビーソースとチェダーチーズがかかったもの)を食べようか悩んでいたがありつけず、帰途についた。6時間半ノンストップでニューヨークに戻ったその夜は、アメリカの独立記念日で花火があがっていた。

もくのあきおは、自称音響音楽創造家兼ソングライター。ニューヨーク市立大学機構大学院インタラクティブ・メディア・アート修士課程修了。ノイズバンドでも活動している。

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