ニューヨーク特派員報告
第98回

この夏のまとめ


毎年、夏になると例外無くサマーコンサートに出かける。それは、無料のモノも多いのに付け加えて、内容も充実したものもあり、さらにいろんなイベントが目白押しなのだ。とはいえ、この夏は一貫したストーリー的なイベントとなった。なぜなら、一緒にそれらに出かけたパートナーと、率直にそれらを反映した/してない音源を制作してしめくくったからだ。

まずは、同時多発テロの現場近くにある世界金融センターの中にある、ガラスばりの温室みたいなコンサート会場、ウィンターホールで開催されたイベント。「バング・オン・ア・カン」のミュージックマラソン。朝から夜まで、多くの出演者が、アメリカ独自の現代音楽、つまり、ミニマル音楽の延長線上をいってる作曲家達の作品が演奏された。ここんとこ何年か坂本龍一も参加してる。客の年齢層もたかく芸術愛好家的な人が多く、居心地もよかった。

第2弾は、ソニック・ユース。ハドソンリバーに架かるワシントン橋の近くにある巨大な教会のような宮殿で行なわれた、彼らの新作『エターナル』の発売記念ライブ。このバンドのライブは、20年くらいまえから何度もみてるけど、加速しているとすら感じられるくらい強いエネルギーを放ってた。毒々しいライトにしびれる不協和音のハーモーニー。30年近いキャリアの中から残っていた名曲などの演奏をみていると、改めて彼らの様なバンドの存在意義を感じ、自分がここにいる原点に立ち返る事が出来る。

そして、セントラルパークでのニューヨーク交響楽団の公演。モーツァルトとベートーベン。このコンサートの素晴らしい点は、高層ビルに囲まれた巨大な芝生の広場で、夕暮れ時にワインを飲みながらクラッシックを堪能でき、しかも最後に花火までみれる。演奏開始3時間前から場所取りをし、音楽専攻の仲間達とへべれけになっていた。爽やかな夕暮れ時の交響楽団の豪勢な演奏は、なんともロマンティックな気分になってしまう。

で、そんな夕暮れ時の野外で、今度見たのはマイ・ブラッディ・バレンタイン。確か去年に再結成され、前回の公演時には、入り口で耳栓を配っていた程、轟音系で90年代初頭に売れていたバンド。轟音バイブは、体毛を振動させ皮膚で聴くのである。聴覚を通じ麻痺した前頭葉が送ってくる経験した事の無い信号をキャッチできた感じがした。直立不動で表情もかえず、淡々発する言葉も爆音にかき消されるベリンダさんのドレスの深紅に、耽美的という言葉が浮かんだ。巨大なロックフェィスでライブで、目当ては彼らだけだったから、トリのツールをBGMにマンハッタンへ向かうフェリーへと向かった。

高層ビルに囲まれたリンカーンセンターの屋外で行なわれた200人のエレキギターのオーケストラは圧巻の一言であった。リース・チャザムというニューヨークで活動してた現代音楽の作曲家によるものであった。チャザム氏の指揮するメインのステージから、客席を囲むように演奏者達はコの字型に配置されていた。客席の4隅には、それぞれまた指揮者がいて、メインから送られてくるサインランゲージをそれぞれのセクションにつたえると、その音は右へ左へと飛び交い、ステレオという音響環境から体験する事の出来ない空間性と、ユニゾンのもつ複数の越微分音的ずれの生み出すもうひとつの和声に、耳をすまさずには居られなかった。その場にいるオーディエンスの並々ならぬ聴く事への真剣な空気があり、おそらく今まで見たコンサートの中でもっとも印象深いものとなった。

この地点が夏のピークで、終わりが見え始めてきて、上記のすべてに同席していたパートナーとのユニットの制作に、拍車がかかり始めていた。4年在籍した大学の録音スタジオを使える日々も3週間となった時。僕のエネルギーはその作品を完成させる事に集中しはじめた。僕の身につけたポストプロダクションの技術を注いだ。相方のケイイチさんは、音の趣味や世界感もとても会う同世代。構想は1年前に出来て、作曲段階に2ヶ月くらい費やしたので、音を録る段階から頭の中でその完成形は見えていた。昼間はバイトしながら、夜は朝までスタジオにこもった。熱狂している自分を客観視したりして、自己陶酔の状態になったこともあった。海にも山にもドライブに行かず、どちらかというと飲み歩いてばかりだったこの夏、そしてソニックアーツの生徒としての最後の作品となった。www.myspace.com/plantskeiichi で音源公開中!日本語だよ。

モクノアキオは、3つのバンドでベースを担当しながら、ブルックリン大学大学院で学際的パフォーマンスの勉強をしている。

www.myspace.com/spiraloop

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