ニューヨーク特派員報告
第92回

音響オペレータ


去年の秋からコロンビア大学のメディア施設のビル内(複数の多目的ラウンジ、シアターや大講堂がある)で、音響や映像などをオペレーターをしたりし始めた。プレゼンテーション、カンフェレンス、ワークショップ、コンサートやパーティーなどのマイク、プロジェクターや照明のセットアップからミックスとかなどをしたりする。クライアントは、学生から専門の研究機関などの団体から自治会などと幅広い。特にクリエイティブな事が要求される訳も無く、自分のキャリアとはあまり関係ないけど、これがやってみると意外に面白かったりもする。

大きなイベントを担当することになると、そのリハから本番までを引き受ける事になる。25K平方メートル、集客規模が1600席というマルチパーパスな大講堂での行事の場合、だいたい3、4日連続で技術担当することになる。トランシーバーで、連絡を取り合いながら照明・映像・音響と、それぞれの担当がパフォーマンスを演出していくのである。去年は、生徒達による世界平和へのメッセージを託したダンスパフォーマンスのプログラムの曲と、録音されたアナウンスのミックスを担当した。3日間のリハをずっと付き添っていたので、本番に緊張しまくっている出演者達の顔をみると、心から応援している自分がいた。そういう意味で、この仕事はどちらかというと観客のメンタリティに近いかもしれない。

プレゼンなどは、単発の仕事も多い。早朝に準備して、クライアントの要望に応じ、複数のマイクやパワーポイントなどの環境をアレンジする。一度イベントが進行をはじめるとトラブルが無い限り、ただミキサーの前に座っているだけという時間が続き、睡魔との闘いに陥ることもある。とはいえ、発表されたばかりのオバマ政権による予算案への回答など、最先端の経済ネタや環境問題ネタなどの高度な議論は、耳慣れない専門用語の飛び交う中でも、ついつい耳を傾けてしまうくらい説得力のあるものもある。常に会場の後ろには、施設独自のケータリングによる、珈琲やクッキーなどのスイーツ等があり、その味もホテル級のレベル。朝食、ランチとレセプションなどのスナックなどが、必要に応じ用意されている。

そんな興味深いトピックの中でも、この2月末に行なわれた大規模なカンファレンス、「気候変動に関する世界円卓会議」は、世相を反映した興味深いものであった。僕はステージ裏で、ビデオスイッチャ?でステージの巨大スクリーンに映し出されたタイトルや、パワーポイントの画像などを進行に沿って操作する役割であった。コロンビア大学地球研究所の主催によるこの大掛かりな会議は、その大講堂に三周する円卓をつくり、100を越える大企業(日本からはリコーが参加してた)が世界中から集まり、国連大使や、環境学者、経済学者や、地方議会の代表などの、地球温暖化に対する現状や打開策提案などについてのプレゼンのあと、かなり具体的な質疑応答を行なっていた。質問者は、マイク(100本以上ある)についたスイッチを押し、指名されると企業名と名前がスクリーン映し出されるというシステムで、大人数のコミュニケートを快適化していた。

京都議定書などの世界的な取り組みの進行状況から、温室効果ガスの内訳ついての具体的な説明や、発展途上国の現状、再生可能エネルギーや二酸化炭素の具体的な処理方法など、あらゆる視点から最新の情報が提示されていた。しかし、この地球温暖化というトピック、日本では随分前から話題にされていて、最近では、エコなものがトレンドとして定着してきつつある状況に対し、アメリカでは、今になって始まった事に感じる。これは、まさにオバマ政権によるグリーン・ニューディール政策などにいち早く反応している。この地球研究所長のサックス博士は経済学者だ。政府が雇用を増大させるために、エネルギー再生や公共施設の省エネ化させることに莫大な予算を投じることが、とうとうアメリカの大企業にとっても、無視できない関心事になってきたという事なのだろう。やっとアメリカもエコデビューを果たす訳だ。

一緒に働いているクルー達は、僕とよく似たミュージシャン系が多く、ここで得たギャラを生活の糧にし、自らの創作活動に精をだしてる。また、多国籍の2世が多く、今のアメリカの労働環境の縮図のようだ。実は学者や研究者たちの難解な話なんかより、変態ノイズとかの方が興奮したりする仲間なので、気楽なもんだ。まんざら悪くもないバイトだ。

モクノアキオは、ニューヨーク市立大学で音楽の勉強をたらたらしながら、アンダーグラウンドで14年ちかくエレクトロニックや実験音楽系の地味な活動しつづけている。

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