ニューヨーク特派員報告
第84回

ヒステリックな女王様



13日の金曜日。久々に、素晴らしいライブを見る事が出来た。同じ世代の友人と、1ヶ月も前から楽しみにしていたティーンネイジ・ジーザス&ザ・ジャークスの再結成。現バットシーズのジム・スクラブノスとリディア・ランチがその名の通り10代に結成したノーウェイブバンド。70年代後期のニューヨークアンダーグラウンドシーンを象徴するオムニバスアルバム「No New York」への参加でも知られている。ケバい化粧とゴシック調でエロい感じのコスチュームで、客を罵倒しながら退廃的な歌詞を絶叫するリディアは、まさにアイコン的存在であった。とにかく、使う言葉がサディスティックなまでにえげつなく、ヒステリックに罵倒するその姿は女王といった風格である。前売りで25ドルという高額のチケットも完売していた。

好みのダブるその友人とは、セカンドセットが始まる11時15分前のチャイナタウンで、待ち合わせる事にした。ライブへの期待を胸に、イーストビレッジの通いつけの居酒屋で一杯引っ掛けようと覗くと、そこは超満席の盛り上がりをみせていたので、そのままコアな中華街を探索することにした。マンハッタン橋のたもとにある職業紹介所とかある裏びれた通りが、今回のターゲット。できるだけしみったれた蛍光灯の光に照らされた場末の定食屋風の店に魅かれて入ってみた。週末のゴールデンタイムだというのに、店員達はテーブルでダベっている暇そうな雰囲気が1時間半ばかり時間つぶしをしたい僕にはもってこいであったのだ。

こっちではよく知られた事だがハードコアな中華街では英語が通じない。僕はただビールを注文したかっただけだが、何度も聞き返されるし、メニューは中国語だけで書かれている。僕は「蟹」、「卵」と「飯」という文字をヒントに天津飯を想像しビールのつまみに注文した。片言の日本語がしゃべれる同い年くらいで、おそらく化粧とかちゃんとしたら結構イケそうなお姉さんがよく冷えたハイネケンを運んで来てくれた。1本たったの2ドルという有り得ない価格。たぶん許可証なくヤミで販売しているのであろう。周りで盛り上がっている労働者風の兄さん達は6本パックでオーダーしている。タバコも店内ですぱすぱ吸っている(NYでは違法)。その完璧に無法地帯な空気は、晩飯の片手に読んでいる、クスリとジャズでイカれた主人公の中上健次の小説とぴったりマッチ。でてきた品はぶった切りにした小ぶりな蟹のはいったスクランブルエッグみたいな感じで、あんはかかってない。蟹のダシは卵にしみ込んでるけど、その殻を舐らない事には身にありつけない。食べにくい事極まり無いが、テーブルにあるちょっと酸味の効いた調味料をかけると信じられないくらいの美味しさのハーモニーを奏でてくれた。ビール3本飲んで、ご機嫌になった僕は、ジャークスの曲を何度も予習しながら待ち合わせ場所に向かった。

ニッティング・ファクトリーの前は人でごった返していた。すぐにメンバーであるジムの姿を発見し、ちょいと挨拶をする。ジムは昔、アルバムをプロデュースしてくれた事とかある。周りにはラリー7、ジョーやフィータスなど見慣れた顔に付け加え、久々に再会する友達も沢山いた。なぜか学校の友人のギャルもヒップホップのパーティのフライヤーを配っていた。オーバー40のバンドの再結成のオーディエンスの平均年齢はもちろん高い。僕はまだガキだ。そんな雰囲気がたまらなく嬉しい。ソニックユースのサーストン、キムがたまにDJブースにきて曲をチョイスする。中は今までに見た事も無いくらい人でごった返している。開演が遅れれば遅れる程、客席は涌いてくる。久々に再会する仲間達が30年ぶりの再結成の期待に興奮しているのだ。45分おくれで、始まったショーは、前座バンドであった。展開なしの一曲=ワンコンセプト。非常にシンプルだけど、エキセントリックなそのアプローチはまさにノンウェーブならではのものであった。あまり知られていないバンドだが、その音は、聴衆のツボにはまり更に盛り上がりをみせた。

女王リディア(49)が登場したのは日付変わった午前零時半。ピチパツの黒いドレスに身を包み巨乳の谷間を覗かせ、ギョロっとしたその眼光は鋭い。両脇はジムとサーストンなので、更に小柄にみえる。うわさ通り、底意地の悪そうな雰囲気が漂っている。思いっきりわき上がるオヤジ連中にでてくるなり、「テメエら、帰りやがれ!何しに来たんだ?おーっ!?」「この肛門野郎!」「ノー!ノー!」などと、怒鳴り散らす。女王が怒鳴れば、怒鳴る程オヤジ達は興奮。いきなり始まった演奏は、ナイフでズタズタに引き裂く様なリフにヒステリックな絶叫。テンションの高さという面では、類をみないものである。スネアとシンバルだけというシンプルなセッテングのジム。彼がちょっとだけ間違えようなものなら、急に演奏を辞めスゴい勢いで睨みつけ「こらっ!なにやってやがんだ!?」と怒鳴りつける。長身のナイスガイ、ジムもたじたじしながらカウントしなおす。女王はまた客をなじる「何やってやがんだ!てめえの姿、鏡で見てみな!」。そのアグレッシヴな演奏はかなり安定していて聴きやすかった。が、途中サーストンが弦をきってしまった事に腹を立てたリディアはまた、「ふんっ!何切ってんだよ、、。」と、ステージ上で彼をなじる。そしてサーストンも萎縮してしまうのだった。「へっ。これが、最後の一曲だよっ!」というかけ声とともに、マゾオヤジ達はステージにドッと押し寄せ、モッシュし始めようとする異様な光景が展開し、ショーは幕を閉じるのであった。

パフォーマンスもさることながら、楽曲のクオリティは予想以上に高く、リディアのギターも不協なのだけど、ジャストなのがサディスティックな緊張感をつくっていた。ライブの後は、ジムに挨拶をしに行くふりをして、楽屋へ女王の姿を間近で見に行く。誰かの「写真、一緒にとってください。」という問いに、即座に「ノー!」といいながらも一緒に写真をとっている姿をみて、ほんとはいい人なのかも?と思ってしまった。とにかくNYアングラ女王の異名がぴったりの強烈なパフォーマーであった。その後は、友人とジョー、ラリーとでジムを囲み、お疲れの一杯に浸ったのであった。感激するショーの後は、余韻に浸りたいものなのだ。

 

モクノアキオは、この夏中に10曲以上はデモを録音するという野望に燃えております。

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