ニューヨーク特派員報告
第75回

マイスペース


マネーに追われて、スタジオへ足を運ぶ事があまり出来なかった為に、1曲といくつかの断片しか出来なかった。しかし、コラボでは、4曲をカタチに持ってゆく事ができた。自分の作品という事になると、どうしても新たなアプローチを取り入れたくなり、それを試行錯誤しているうちに、学習状態になってしまうから、それゆえに時間がかかってしまう。まだまだ作曲家としての勉強不足を痛感してしまう。頭の中で鳴り響いている音をスピーディーに作品に仕上げられるよになりたいものだ。

ちょっと遅いデビューなのだが、夏の初めに、マイスペースで自分のページを作った。自分の参加してるエレプ(Electroputas)は去年からあるのだが、僕個人のはこれがはじめて。この電脳コミュニティ(ソーシャルネットワーキング)はハマる。知り合いのミュージシャン達はほとんど既にページをもっているので、早速フレンドリスト(マイミクみたいな感じ)の追加をリクエストしまくって、フレンドのフレンドをチェックし、いい感じのは、リクエストして人数を増やしていく。また、そういった逆の行為から、リクエストが来たりもする。

既にご存知の輩も多いとは思うけど、マイスペのいいところのひとつは、結構な音質で、ブラウザ内で作品が聞け、ほとんどの洋楽のアーティストのページがある。まるで、世界規模の音楽データベース。プロフィールや写真もあるから、そのアーティストの事を知る最も手っ取り早い手段。この夏、全米ツアーをした友人も、そのブッキングはマイスペを利用したと言っていた。もはやデモテープと履歴を郵送する時代では無く、メールにマイスペのURLを添付するだけで良いのだ。

マイスペの存在は、2年くらい前から知ってはいた。音楽理論の教授がページを持っていることを授業で公言し、同じくページをもっている生徒達がフレンドになりたがっていたからだ。音源(MP3)を持っていれば、かなり簡単に自分のページを作る事ができる。だからなのか、ほとんどのミュージシャンがページをもっていて、また、自分が昔好きだったアーティスト、映画監督、哲学者なども(オフィシャルではないのも多いけど)、ページがあり、フレンドになる事も出来るのも、もうひとつの魅力だ。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)としての機能は、ミクシィみたいなのだが、コミュニケーションの軸が日記では無く、万国共通の言語の音楽というところが違う。アメリカ発のモノなので、コンテンツの公用言語は英語になってしまうが・・・。

曲は最高4曲まで、載せる事ができて、その日に再生された数や総合の再生数、なども表示されるので、そのページにどれだけの人がアクセスしたかが解る。それも、わりとフレンドの数に比例しているように見える。同じレーベルのGang GangDanceなどは、現在8166フレンドがいて、トップの曲は1日200回くらい、エレプは742フレンドで、20回、自分のソロは177フレンドで、10回くらい。再生回数は日によって、ばらつきはあるが、作っている側としては、モチベーションにつながる。

フレンドリクエストがグローバル規模でくるのも、面白い。毎日、少しずつだけどフランス、スペイン、トルコやオーストラリア、韓国などの似通ったジャンルの音楽を作っている人が、フレンドを通して発見して、リクエストして来てくれる。また新発見だってたくさんある。例えば、上海や北京でも、ノイズとかやってるアーティストがいることや、タイのバンコクにもおもしろいエレクトロをやってるレーベルがあったりすることだ。そういう繋がりで、そっちにツアーに行きたいなんて、夢を膨らませたりもする。

ライブのプロモなどにも一役買っていて、フレンド同士なら、お互いの次のライブがどこでやるかも自動ででてくるから便利だ。プロモに関して言えば、ライブのみならず、自分自身を売り込むことだって可能。英国のソングライターのリリー・アレンちゃん場合、このマイスペでの再生回数の多さがデビューへと繋がったらしいし。

音楽を発信する事を目的としなくても、自分のページが持てるから、音楽ファンも、沢山参加している。友達のタイ人のメイクアップアーティストももってて、コミュニケーションツールとして活用しているみたいだし。そういった、人が集まるところに人は何故か集まってゆくからSNSとしての機能としても強力だ。現在のユーザー数は約2億人。でも、邦楽アーティストはあまりいないみたい。

10年くらい前は、自分のウェブページで音を発信(リアルオーディオで)するのに四苦八苦していたのを思い出す。ニューヨークにいながら、音質は悪かったけど、日本の最新のアーティストの音とか聞けることに感動していた。最近は、めっきり自分のページをアップデートしてなくて、その原因のひとつは、当初に比べてリアクションの無さにもある。そういったやりとりをする場が、マイスペースやミクシィなどに移行していったのかもしれない。巨大になりすぎた電脳空間の中で、趣向の合う者を選別しやすいのが理由のひとつなのだろう。しかし、自分がつくったできたてホヤホヤの新曲を、その直後に全世界(インターネットのある場所)で聞く事が出来るって、凄くない!?音速超えてるもん。

モクノアキオは、ジャズの熱いハーレム在住の音楽研究家(主にインディーロック)。最近の作品は、www.myspace.com/spiraloopで、聞く事ができる。無調の12音式作曲法を利用したピアノの作品も発信されている

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