ニューヨーク特派員報告
第36回

芸術としての性


録音スタジオが立ち並ぶティンパンアレイ。その一本裏の27ストリートにある現代アートなガーシュインホテル。その隣に最近、セックス美術館なるものができ、民放ニュースなどで少しまえに物議を醸し出していた。かつては練習によく通ったそのご近所に、性をモチーフとして限定したアートを確認しに出かけた。まず驚いたのは、その入場料。定価は14.5ドルで、学割が効いても、9ドルもする。これは、メトロポリタンや、現代美術館より高い。入り口の奥には、土産物屋があり、電動コケシやポルノグラフィ、Tシャツなどが売られている。荷物は持ち込めない為、コートチェックに預ける。写真撮影も一切禁じられている。

展覧会に入場すると、まず目に飛び込んだのは、『帽子が笑う、無気味に。』のシドバレットを彷佛させる男が素っ裸になってあらゆる淫らなポーズをしているロバートメープルソープみたいな写真の連続が直角に曲がる壁にそって展示されてた。その先には、説教している御夫人の映像に、何かを啜る音がオーバーダブされたものが、投影されていた。典型的なアメリカン肥満の御夫婦がそれに見入っていた。会場に足を踏み入れ驚いたのは、誰もいない事。そのチャビィな夫婦と野郎が一人と警備員。僕を入れて4人だけがイカガワシイ品が陳列されているその広いホールを徘徊していた。覗き込むとみえる5本のペニスの指に、ヴァギナの手相の彫刻。スペルマに囲まれたアニメキャラのような村上隆の人形に、裸の女の子が二人で子犬といちゃついているビデオ。真ん中には、ドンと飾られたストライプで、枕になる位置が交互になるようになっているベッドらしき物があり、対面のかべに3Dグラフィックで、それの使用イメージが16パターンくらいえがかれていた。

なぜかBGMに初期のトムウエイツの場末の酒場的ソングがノ。これは、意図的か、警備の兄ちゃんが退屈しのぎにかけているのか?なんか、ラブホテルでながれてるエッチなビデオのごとく間の抜けた空気。ふと、友人からかつて聞いた三重県の『国際秘宝館』のことを思い出した。

突き当たりの薄暗いなんの洒落っ気のない階段をのぼると、今月のメインの催しもの『S性X、中国2500年のエロス』の蓮の花に囲まれた入り口には、アルフレッドキンゼイのコレクションとしるされていた。キンゼイ博士は、20世紀前半、インディアナ大学で、18000人の男女を対象に彼等の性生活をリサーチし、その衝撃的な結果を『キンゼイリポート』として発表。1950年頃のアメリカの性の乱れを暴き、『性科学の父』なる異名をもち、人類の歴史に重要な功績を残した人物。

ピンク色の薄暗い照明に、玉簾の向こうに展示されているお宝。アジアっぽいエロスを演出しようとしてか、なんともチャチなMIDIっぽい音色の琴の音がループしていた。展示品はナマズ鬚オヤジが小太りのおばさんと裸でいちゃついているような水墨画、硯に墨。黒人警備員は暇そうに、玉簾をジャラジャラして僕の気を散らした。まるでお化け屋敷にいるかのような錯角に陥らす誰もいない薄暗い廊下をぬけると、嘗て中国女性が自らの足を幼年期より縛り付け、成長を妨げ小さく育つという風習、『纏足』についての写真、沢山の小さな靴、腐ってちぎれてしまったミイラ状の足などが展示してあった。角にあった小さなモニタには、何の脈絡もないと思われる単なる中国のアダルトビデオが流れていた。蒔絵には、馬を挟んで、若い二人が交尾してる牧歌的な作品、男同士で弄りあっている絵もあった。所用時間、約20分。何かを期待し過ぎていた僕は、何か満たされない気持ちで呆然と鞄を受け取ると、外には予想外の雨がザーザー降っていた。花の咲き乱れる5月に向けて。


モクノアキオは最近、大学の勉強に忙しくライブ活動があまり無い。相変わらずブルックリンのスタジオで新作のミックスの日々。http://www.spiraloop.com

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