ニューヨーク特派員報告
第20回

ルドロウストリート


 ニューヨークに移住して良かったと思う事は、社交場などに出かけた時にたくさんの興味深い人間に出会える事だ。人との繋がりは大切である。すべてはそこから始まるのである。とにかくいったんオモテにでて、人と話をしだすと、次から次へとパーティやライブにと夜遊びの誘いが絶えない。そこがこの街の良さであり危険なとこでもある。

 オブラットという音響系のアーティストがいる。彼女はかつては、クーラーというとてもアバンギャルドでノンウエイブなライブハウスで働いていたこともあり、とても顔がひろく僕にイクエモリさんやサーストンムーアなんかを紹介してくれた。彼女も積極的に、イベントを企画したりしているが、それはとてもいろんなメディアが融合されたもので評判がいい。多くの音響系と呼ばれる人たちはラップトップで演奏する輩が多いが、興味ぶかい自作のマシーンで音を奏でるアーティストはとくに注目をひく。

 そんな中、ラリー7は、ここらでは、良く知れたアナログマニアだ。彼のアパートに一度、お邪魔したことがあるが、その部屋の中には、ビッシリとまるでロボットの操縦室のように、つまみだらけの巨大なシンセや、ミキサー、てっきん、レズリースピーカー、ラジオ、チャイムなどなどがきちんとオーガナイズされており驚いた。ライブする時の形態も、そのつど異なり、前回みたライブでは、自分でカッティングしたレコードをレズリースピーカでならしながら、2、3のオシレータ(50年くらい前のもの)でサスティンの効いたドローンな唸りをだしていた。彼のサウンドはどちらかといえば中性的な振動がある。

 ラリー7は、彼が100メートル手前を歩いていても容易に見つけだす事ができるとても特徴のあるいでたちをしている。彼の髪は凄くきれいでしなやかなストレートで、うなじは普通より高い位置まで剃りあげられていてその後ろ髪はワカメちゃんのように突然なくなっていて、まるでヘルメットをかぶっているようになっている。そして決まってスーツ姿だ。ネクタイは半分焼けて無くなっているものを愛用していた時期があった。彼はまだ独身だが、本業がフォトグラファーだからか、いつも2、3人のモデル系の美人ギャルと歩いている事がおおい。ローワイーストの中古屋さんでよく物色していたり日本食レストランにいる姿がみられる。

 パンソニックというフィンランドの音響系デュオは昨年、伝説の電脳パンクユニットのスーサイドと合体して話題になったが、連中のミュートレコードからのファーストは衝撃的なミニマル音楽だ。シールドの先端に触れた時の音、ぞくにいうガリや、高周波からいきなり低周波に切り替った時の耳にかかる圧力などをたくみに利用している。ブルックリンのポーランド国際会館で共演したときも600人の聴衆を魅了するその重低音は板張りの床から埃を吹きだたせる勢いだった。

 彼達はみんな、ルドロウストリートあたりのバーでよく見かけられる御近所さんたちの一部だ。アメリカ人の多くは誰とでもよく知った友達のようにはなしをする。ダウンタウンのバーでボーッとしていれば気付かぬうちにたくさんの連中とハナシをしだしている。ひとり友達ができれば、10人又知り合いができる。みんな新しい情報をもとめていて、みんな自分をアピールしたがっている。人との出会いがもたらす思わぬ展開は、ここでは日常茶飯事。でもその運を切り開いていくのはやはり己の実力なのだろう。


モクノアキオはダウンタウンを中心に最近はウイリアムズバーグにもよく出没する音楽家。最近は大学で勉強したりもしている。www.spiraloop.com


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