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もう随分、音楽をつくっていない。今、久しぶりにシーケンス・ソフトを起動してかつて制作したファイルを演奏しようとしているが、なかなか思うようにいかない。色々忘れてしまっている。最後にこのソフトを触ったのは半年前か。去年の三月にパンデミックが始まってから、たまにしか活動していない。ライブの予定が入らないとなんかやる気がしないのだ。 パンデミック宣言がされた時、タップダンサーの熊谷和徳とのコラボのショーのリハだった。いきなりキャンセルになった。考えてみれば、それまで途絶えることなくいくつものプロジェクトを並行して行っており、結構、頭の中は飽和状態になっていた。大学での仕事の合間を縫ってプログラムのことなどばかり考えていた。今、久しぶりにその頃作った自分のファイルを眺めながらそんなことを思い出している。 アメリカはこのトンネルの出口が見え始めている。一時的だと思った非常時もこれだけ続くと日常となり、パンデミック以前の日々が遠い過去になりつつある。この間に音楽業界が受けたダメージは計り知れない。(運よく)専業音楽家ではない僕は、普通の仕事だけをして毎日を過ごしていた。凡庸なサラリーマンのように、仕事が終わったら帰宅して晩ご飯を食べ、夜10時には寝ている。夜にイベントなどもうずっとないし、仕事は朝早くから始まる。 このような単調な毎日のお陰でものすごく健康になった。夜はぐっすり、平均7時間は眠れている。食生活もコントロールできるようになり、体重もこの半年で7キロ落とすことに成功した。仕事場まで歩いて行ったり、筋トレをしたり、森をジョギングしたり、歯も丁寧に磨いたりして、体調のメンテナンスにも気を配っている。お酒はワインを週末に1本飲むだけに(基本)している。これといったイベントや社交がないから毎日7時間働いていてもこれらのルーティーンをこなすことに問題ない。 そもそもニューヨークライフは、忙しいものであった。大都会と言うだけあって、いろんなことがある。日々、生活の為に働き、その合間を縫って自己実現のためにいろんな挑戦をする。そういうことをフル回転できるきっかけに恵まれた街である。だから、美味しいギグなどあると、ある程度無理してでもこなそうとしてしまうことが多かった。そういう時はやはり代償としてストレスがたまったり、体調を崩したりということも避けられなかった。 この一年、全てのイベントはキャンセルされ、自粛状態が続いた日々のお陰で、健康になったことは素晴らしいことだと思う。と同時に、そろそろニューヨーク本来の状態に戻るためのリハビリをしなければと思い。ボチボチ社交を始め、ボチボチ、プロジェクトのことを考えたりし始めている。まだ全てが終わったわけではないし、この先、世界がどのようになってゆくか全く予想もできないわけだけれども、できるだけ現実的に考えて、その時に乗り遅れないように準備しなきゃなあと思う。それくらい僕は音楽活動から遠のいていた。 こうやって久しぶりにシーケンス・ソフトを起動しパンデミックまでに制作していた音を聴くと、なんとも時代に噛み合わない。その響きが空虚に感じてしまう。その頃つくっていた音やフレーズはとても浮かれている。あたかも人類は無敵だという万能感に酔った感じに聴こえてしまうのだ。この1年の自粛生活によるブランクから復帰するためには、全てをゼロから始めるべきなのだろう。 もくのあきおは電子音響音楽家。最近またピアノの練習を始めた |